浪花節をレコードで聴く㉒

京山幸枝若『会津の小鉄・新門との出会い/粟田口の達引』(ローオンレコード)

●『新門との出会い』:飯安を大阪で斬り殺した上坂仙吉(のちの小鉄)が、江戸の火消し相模屋政五郎の元で世話になって一年。ある日、帰阪した時のために江戸の土産を持たせてやろうと、会津部屋の若い衆が仙吉を吉原へ連れて行く。仙吉は自分の根性試しをするのだろうとついていくことにする。仙吉は隠れて店の者に200両の金を渡すと、それが若い衆に知れて仙吉の株が一挙に上がる。若い衆は次の朝に帰ってしまうが、仙吉は居続けをして6日目の朝に部屋へ帰ると、政五郎の右腕であった般若の直次郎から「何故、お前は喧嘩と聞いて逃げたんだ」と詰め寄られる。訳を聞けば、何でも新門辰五郎のところの天狗の重太が会津部屋へやって来て、何も言わずに千両出せと言ってきたので断ると、政五郎に重症を負わせたと言うのだ。直次郎は辰五郎の家へ殴り込みに行こうとしたが子分に止められ、今、政五郎は仙吉に会いたいと口にしているという。それを聞いた仙吉が政五郎の枕元へ駆け付けると、自分が死んだ後は会津部屋を頼む。だが、辰五郎のところへ殴り込みには行っていけない。こうなったのもお前が殺した飯安が辰五郎と兄弟の間柄で、それを知っていながら一年もの間、挨拶に行かなかった自分が悪く、お前に理屈はないのだからと言って聞かせる……。政五郎の百ケ日が過ぎ、仙吉は辰五郎宅を訪ねると、辰五郎は単身乗り込んできた仙吉に感心するが、仙吉の気は収まらない。一触即発となった時に、江戸見物へ来ていた清水次郎長が現われ、ひとまず手打ちとなる……。

●『粟田口の達引』:舞台は京都三条通りの白川橋。その河原に筵で小屋を建てて、15、6人の客を集めて丁半博打が開かれている。そこへ一人の男がやって来て「名張屋新蔵親分の縄張りで、誰に断って盆を敷いているんだ」と言ってきた。その相手になった男が「京都一の大親分だ、わずかばかりの勝負は笑って許してくれるだろう」と返してきたので、それを聞いた達磨の長助という男がドスを抜いて四日市の門次という男に向かっていくと、門次が投げた石の当たり所が悪かったのか、長助がくたばってしまった。それを遠目で見ていた名張屋新蔵は子分が殺されたとなればと、門次を切り捨てて立ち去ろうとした時に、もう一人の男が現れる。それは会津部屋で長曽根虎鉄という刀を差していることから、その名が付いた会津の小鉄であった。小鉄を目にして新蔵が走り去っていくので、小鉄が追い掛けると、誓願寺の墓場で新蔵が相手になろう言って来る。するとそこへ同じ会津部屋の笠間小僧の新太郎という槍の使い手が現れるも、新蔵の相手にはならない。小鉄は新蔵の前で大の字になり、どうにでも勝手にしろと言うと、新蔵は小鉄の度胸を見据えて、その小指を切って去っていく。このままもう一度新蔵の元へ行こうとするが女房お吉のことが頭に浮かんだ。そこで小鉄が家に帰ると、お吉は全てを知っており、男であれば、何故、名張屋へ乗り込まないのかと言ってくる。それを聞いた小鉄が家を出ると、家の中からお吉の悲鳴が。お吉は自害をし、小鉄はお吉の首を切り、それを手にして名張屋へと向かう……。

●先に紹介した『幸枝若節河内音頭 會津の小鉄・小鉄と新門の出合い』の浪曲版。河内音頭でリズムよく聴く『会津の小鉄』もいいが、やはり節と啖呵で聴かせる「小鉄」もいい。特に『新門との出会い』の前半では、吉原の明るさと賑やかさが幸枝若の張りのある高っ調子の唸りで聴くことができる。その文句の中には「琴三味線や笛鼓 これを見たなら智者も学者も聖人も 釈迦のお弟子の坊さんさえも 剥げた木魚も水晶の数珠も 質屋の蔵へ放り込んで 丸い頭にねじり鉢巻 お経交じりの都々逸唄うて……」とケレン味たっぷりに演じられ、ラストではこれぞ浪曲!と言わんばかりに、長い節で一気に仙吉と辰五郎の緊張感あふれる対面の様子とその行方が。そして『粟田口の達引』では新蔵親分と小鉄の一騎打ちの場面が二丁の三味線の音色に押されるように語られている。やはり名盤の一枚。曲師は藤信初子、小池菊江。(2021.11.01.)

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