浪花節をレコードで聴く㉑

初代天光軒満月「召集令・雪の夜話」(ローオンレコード)

●「召集令」:日露がいよいよ戦火交えることになった明治37年。家では三年の間、肺を病んで寝たきりになっている妻と、常に腹を空かせている二人の子どもを持つ松岡幸三のもとに召集令状が届く。貧乏暮らしをしている上に、自身が戦地に行かねばならないからと、幸三は金策に走るが貸してくれる人もいない。仕方なしに帰宅すると、女房のおたねが自ら命を絶っていた。遺書には軍人の妻であることを誉に思うこと。二人の子どもは私のところへ送って欲しい。そしてあなたが立派に戦死をして、家族四人の命を天皇陛下へ捧げましょうとしてある。そこで幸三が子どもに手を掛けようとしたところを、日頃から目を掛けてくれている金子巡査が止めに入る。どんなことがあっても二人の子どもの面倒は見てやるという約束を信じ、幸三は満州の地を進んでいく……。

●「雪の夜話」:薬剤師の三浦のもとに13年振りに、今は片腕になった弟の敬二郎が訪れる。妻の夏子はその汚らしい姿を見て追い返して欲しいというが、弟を追い出す訳にはいかない。そこで一計を感じ、夜具がないこと、そしてそこにいた友人の多田から多大な借金があるために泊めることができないと言うが、嘘であることがバレてしまう。怒った敬二郎は小さい頃に兄の罪を被ったことなどを話して家を出て行こうとする。するとそこへ一人の子どもが解熱剤を求めにきたので三浦は手渡すが、間違えて劇薬を渡してしまったことに気付く。頼りにしていた多田は巻き込まれたくないからと帰ってしまい、三浦は自死しようとするが、寸でのところで敬二郎が止めに入る。そこへ警察官が訪ねてきたので、劇薬を渡したのは自分だと敬二郎は告げるが、子どもが雪に滑って薬瓶を割ってしまったので、改めて薬を処方してやってくれと言ってくる。弟の心意義に、三浦もその妻お夏もそれまでの態度を反省する。

●啖呵の部分は講談と言おうか、活弁のような語り口で聴かせるのは、SP盤を復刻したこの盤(タイヘイレコードから戦中に出された文藝浪曲の4枚組SP盤の復刻)の要所で、クラシックなどがBGMで使われるからだろうか。それが節へ変わった途端、いかにも昔の浪花節と言うようなドッシリとした唸りで物語を語り上げる。その声も、例えば桃中軒雲右衛門のように深くて重たい声ではなく、どこか哀調があり、登場人物の運命を見定めるかのようなものなので、物語に哀愁を帯びさせる。「召集令」であれば、題材は日露戦争を前にした貧乏暮らしをする一家に待ち受ける運命であるが、時を超えても、こうした生活苦に苦しみ、自身の運命に悩み、それを助けてくれる人はきっといる……という、いかにも日本人が好みそうなテーマは、たとえ夢のような話とはいえ、こうした話の中で生き続けるのではないかと感じさせるのも、初代満月の至芸によるものかも知れない。 「雪の夜話」は、今は大利根勝子の十八番として知られるが、登場人物の名前や設定上で若干の相違が見られる。満月の演出では弟が何故片腕を無くしたのかという展開や、多田という人物像がイマイチ見えてこないのだが、それでも物語の不条理さと、薬剤師が劇薬と解熱剤を間違えるか?という疑問を封じ込めるような畳み込み。更に「♪夜空に荒ぶ木枯らしは 吹雪の中に消えゆけん ポプラ並木に町の灯に 儚き浮世の声は満つ 幼き夢よ若き日よ 今振り仰ぐ寛悦の 眼に潤む玉の露 巷に歌は響けども希望の星は瞬かず 過去も未来も一抹の 漆の如き闇ばかり」という名文句が物語を彩っている。(2021.10.31.)

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