浪花節をレコードで聴く㉓

広沢菊春『梶川与惣兵衛・恋の絵図面取り』(ローオンレコード)

●『梶川与惣兵衛』:元禄14年3月14日、殿中松の廊下で吉良上野之介に斬りかかった浅野内匠頭を抱きとめた梶川与惣兵衛が、事件から半年過ぎたある日、老中秋元但馬守に呼び出される。「曽我物語」での御所の五郎が曽我五郎・十郎にかけた情けの例を用いて、何故、内匠頭に本懐を遂げさせてやらなかったのだと意見すると、事を目の前にして余裕がなく、浅野を止めてしまった。もしあそこで浅野を放てば、一旦、押さえたものをどうして放したんだと笑われると返す。それを聞いた但馬守は納得はするも、梶川を出入り止めにする。屋敷を出た梶川が柳橋の店で飲んでいると、二階で酔っ払いが松の廊下の話をし出し、梶川を馬鹿な奴だとののしりはじめた。怒った梶川が、その町人に切りかかろうとするのを止められた時に、止められたことに腹を立てたということに気付く。梶川が浅野の墓前に向かうと、自分の命を狙う者と出会う……。

●『恋の絵図面取り』:本所松坂町に新しくできた平野屋という酒屋の奥で、主人の弥兵衛と番頭の金が話をしている。実は主人の正体は貝賀弥左衛門で、金さんは岡野金右衛門である。話の内容は岡野に吉良邸の絵図面を手に入れて欲しいというもので、毎日父親のために酒を買いに来るおよねが岡野に惚れているらしいので、いい仲になって、大工の父親が持っている図面を入手するというものであった。岡野は早速およねを誘い出し、夫婦約束をして絵図面を見せてもらうことにする。夜になって、みなが寝静まった頃、およねは絵図面を盗み出すが、それを父親に見つかってしまう。事情を聞いた父親は金が浅野の家来であることに気付き。およねを勘当して絵図面を持たせて岡野の元へやると、全てを知った岡野はぴょねに謝るり、およねはあの世で一緒になりましょうと告げる……。

●落語色物の寄席でも浪曲を披露した広沢菊春の「義士伝」。ドッシリとした腹の底から唸り出すと思えば、高音の柔らかい声にも転ずる唸りには安定感があって、その節の内容もわかりやすい。だからこそ落語好きにもファンが多かったのではないだろうかと感じさせる出来で、忠臣蔵の怒りの物語と切ないストーリーがカップリングされている。『梶川与惣兵衛』は講談では稲葉丹後守の屋敷を訪ねて……という展開や、最後に命を狙うのは脇坂という設定もあるが、ここでは町人に自分のやったことに気付かされたり、最後に槍で狙ってきたのは秋元但馬守の家来か?といった謎を残して終わる。江戸っ子の怒りを強い節回しで描いている。一方で『恋の絵図面取り』はおよねの姿が可愛らしいので、待ち受ける恋心をもてあそばれてしまう展開が可哀想に思えて仕方がない。こちらは浪士の堅い決意とともに、赤穂の味方についたおよねとその父の運命を投げ出しても岡野を支えようという優しさのこもる声が心に響く。それにしてもなかなか味わいのあるイラストによるジャケットである。それもまたローオンレコードを聴く楽しみ。尚、ジャケットに見える脚色者の「小菅一天」は「小菅一夫」の間違い。曲師は森きよ子。(2021.11.16.)

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