浪花節をレコードで聴く⑩
京山幸枝若『幸枝若節河内音頭 會津の小鉄・小鉄と新門の出合い』(ローオンレコード)
●飯安を斬り殺した小鉄が、江戸の火消し相模屋政五郎の元で世話になって一年。ある時、これまで江戸の土産を持たせていなかったからと、会津部屋の若い衆が小鉄を吉原へ連れて行く。小鉄は自分の度胸(度量)試しをするのだろうと、隠れて200両の金を見世に渡して散在することにする。だが、充分な金を渡していたにも関わらず、若い連中は次の朝に帰ってしまう。小鉄が登楼して6日目の朝、部屋へ帰ると、政五郎の右腕であった般若の直がドスを手にして小鉄に詰め寄る。何でも新門辰五郎のところの天狗の重太がやって来て、政五郎に重症を負わせたと言う。政五郎は小鉄に会いたいと口にしているが、お前は何故、喧嘩と聞いて逃げたんだと言うのだ。その誤解を解いた小鉄が政五郎の枕元へ駆け付けると、自分が死んだ後は会津部屋を頼む。だが新門のところへ殴り込みへ行ってはいけない。こうなったのもお前が殺した飯安は辰五郎を兄弟の間柄で、それを知っていながら挨拶に行かなかった自分が悪いのだ。喧嘩を吹っかけても、お前に理屈はないのだから……と言って聞かせる。政五郎の百ケ日が過ぎ、小鉄は辰五郎宅を訪ねる。辰五郎は単身乗り込んできた小鉄に感心するが、小鉄の気は収まらない。一触即発となった時に、江戸見物へ来ていた清水次郎長が現われ、ひとまず手打ちとなる……。
●ローオンレコードの「ローオン」とは「浪」曲と河内「音」頭からその名がついたとされる。浪曲の他に歌謡曲や、河内音頭の音も多々残している。ローオンの主軸にあった初代京山幸枝若も、浪曲ばかりでなく河内音頭を残しており、十八番であった『會津の小鉄』の河内音頭盤がこの盤である。タイトルに「幸枝若節」とあるように、河内音頭の形式は取りながら、その節はあくまでも浪曲で聴かせる幸枝若流の美声の節回しで、小鉄の身に起こるケレンのある場と緊張感を伴う場の両方を唄っている。三味線とギターの音色がまた幸枝若の描き出す世界を盛り上げながら、『会津の小鉄』という物語の楽しさを音頭にのせて楽しませてくれる。先に紹介した浪曲版「小鉄と新門の出合い」の2年前にあたる物語。曲師は藤信初子、小池菊江、ギターは近江吾郎、太鼓は伊藤輝雄。脚色は小椋喬。(2021.09.13.)
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