浪花節をレコードで聴く⑪
木村若衛『塩原多助一代記~塩原多助江戸日記』(ローオンレコード)
●「青馬の別れ」:上州沼田で暮らす塩原多助は、継母であるおかめから殺されそうになる。原丹治と不義密通を働くおかめが、自分の娘であり、今は多助の妻であるおえいと、丹治の息子丹次郎がこのままでは一緒になれないからと丹治をそそのかしたのだ。ある日、多助が愛馬の青に荷を積んで歩いていると、急に青が動かなくなる。全く動く気配がないので困っていると、知り合いの円次(郎)が声を掛けてきたので青の世話を頼むことに。多助が先に家へ帰ると、そこには青の姿が。あとになって、多助の代わりに円次が庚申堂で殺されたことを知り、このままでは我が身が危ないと、青に別れを告げて江戸へと出ることにする。
●「戸田の屋敷」:江戸の炭問屋山口屋で奉公をしている多助が炭を届けに戸田能登守の屋敷を訪ねると、あるご家中へ炭を届けて欲しいと頼まれる。その家を尋ねると葛籠に「塩原」という名を見つけ、実父の角右衛門がいることを知る、一目会いたいと思う多助だが、母お清から身分が違うのだから会うことはできないと告げられ、戸田の屋敷を後にする……。
●戦後の浪曲(東京)四天王の一人(東家浦太郎①、天中軒雲月④、松平国十郎)に数えられ木村若衛の十八番。タイトルには「塩原多助江戸日記」とあるが、A面は有名な「青馬の別れ」、B面は「戸田の屋敷」である。しかもB面はライブ音源で、時に赤ん坊の泣き声が聞こえたりもするが、客席の熱気に押されているせいもあってか、声がいつもより上っ調子で、これがまたいい。いわゆる「当時の」関東節隆盛の時代にあって、胴声(つぶした声)ではなく、上声(普通の声)で演じた若衛節をたっぷりと味わえる。継母から受ける仕打ちの辛さを口に出さずに、多助がグッと耐える姿がにじみ出るように唸ってみせるのに対し、途中「まさか馬ですからこんなところで節は使わなかったでしょうが、このぐらいだろうという馬の心の内をご紹介いたしました」なんて、多助のこれからの運命について馬が語って見せるなど、ケレンの様子も忘れない。また、山本太一の力強い撥捌きが、多助の決意を押し出すようでいて、聴きごたえたっぷりである。胴声での東京浪曲に馴染み深かった世代には、もしかすると物足りないのかも知れないが、今の世に上声で唸る浪曲のあり方を残したその功績。更に東京の演芸界に残した数々の功績もまた大きい。木馬亭では『河内山宗俊』の「玄関先」を聴いたなあなんてことを思い出しもした。曲師は山本太一。(2021.09.16.)
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