墨亭・令和二年正月興行・その3
墨亭初の正月興行を寄席形式でやろう!と決めた時に、絶対にやりたいと思っていたのが、二日目の第二部で企画した、実力ある二ツ目と若手真打の番組でした。口幅ったい言い方ですが、長年、落語を聴き続けてきた演芸評論家としてのこの耳とこの目で、今、間違いなくオススメできる若手の競演を、いわば「今年はこの人達を見ておいて間違いないですよ」という組み合わせで見せたかったのです。
開口一番の林家なな子さんは、賑やかで笑いをそらさない林家らしい高座が魅力です。墨亭で開いている「松子会(志ん松・なな子二人会)」のパンフで記したことがありますが、林家の芸風は「強い」ものです。大師匠の先代林家三平師にしても、師匠の九代目林家正蔵師匠にしても、基本的にはグイと押してくる芸です。なな子さんはまだ粗削りなところもありますが、得意にしている地噺や筋物にも取り組んでいくことで、いい意味で「中性的」な落語家として、どんな噺でも違和感なく演じられるようになるのではないかと期待しています。
その「松子会」で一緒の古今亭志ん松さんは、反対に「柔らかな」古今亭の芸をいつも見せてくれます。昭和・平成の名人であった古今亭志ん朝も、一見、男らしさを感じる師匠の古今亭志ん橋も、聴き手を優しく包み込むような居心地の良い落語を聴かせてくれます。志ん松さんの落語もそんな風があり、ややゆっくり目な口調で、自分の落語の世界を丁寧に描き出していく高座にいつも魅力を感じています。
落語芸術協会からは雷門音助さん。前座の頃からしっかりとした語り口で注目してきましたが、ここに来て、どんな噺であっても真摯に向き合うことを忘れず、優しい扱いで落語を自分のものにしていこうという様が、ますます気になっています。他の共演者が落語協会所属の中での出演で、本人も緊張した(?)様子でしたが、そうした協会の仕切りといったものをまるで感じさせない、こうした競演を通すことで、落語家同士の間にも様々な「彩り」が生まれることを見せてくれるような高座でした。
そして、この日の大将は隅田川馬石師匠。どちらかというと大ネタや連続物が注目されがちですが、なかなかどうして。馬石師は寄席で演じるような滑稽噺がまたいいのです!元日に『狸の札』を聴きましたが、その時は「狸というのは恐い生き物」という変わった視点で、例えば、恩返しにやってきた狸が、「自分が化けるところを決して見てはいけない。見たらあなたを消さなきゃいけない、狸は恐いんですよ」なんて、独特な演じ方で見せてくれましたが、この日は十八番の『鮑のし』の中で、どこかフワフワしていて、決して憎めない甚兵衛さんを登場させ楽しく魅せてくれました。
この四人ならば、大きな会場でやっても、きっと満足してもらえるはずだ!と思いつつも、やっぱり「墨亭」のような小さな会場で、身近の間近で楽しむのが一番だよなと強く思った番組でした。(雅)
(この日の番組)
林家なな子『大師の杵』
雷門音助『七度狐』
古今亭志ん松『親子酒』
(中入り)
隅田川馬石『鮑のし』
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