墨亭・令和二年正月興行・その2

正月興行の第二部は落語たっぷりの会。

他の初席ではなかなか見られない(だろう)、落語協会と落語芸術協会の実力&爆笑派真打の競演で、その高座を耳にしながら、ふと思ったことがありました。

初席はやっぱり「あの」ネタを聴かなければ始まらないということです。

もう「その」師匠の「あの」ネタが聴けなくなって、早15年が経とうとしています。それは桂文朝(1942~2005)師匠の『かつぎや』という噺。何にでも縁起を担ぐ大店の旦那が、それを知っているはず(?)なのに、不吉な事ばかりを言ってくる店の者に文句を言う噺で、時間の短い正月興行の場合、文朝師匠は年始の挨拶にやってくる人の名前を帳面につけるといった場面をメインに演じていました。

しかも、それがひどい(笑)。小僧に命じて、来訪者の名前を読み上げさせるのですが、効率がいいように、店の名とやってきた人の名前を略せと言われたことから、その小僧が「湯屋の勘助」を「ゆかん(湯灌)」、「油屋の九兵衛」を「あぶく」と呼んでみたり、ひどいのになると「焼き芋屋の馬兵衛」を「やきば(焼き場)」と呼んで、主人に「そんな人がいるのか?」と言わせたりと、そのやり取りが忘れられません。そういう時に、大抵、サゲにしていたのが「焼き場」の次で、順が行って「こつあげ(骨上げ)」。「それは誰だ?」「交通公社上尾支店です」といったもので、私自身、以前、日本交通公社で働いていたので、嫌な思いを……することはなく、大笑いをして楽しんで聴いていました。

今回、墨亭の正月興行、初日の第二部で、古今亭菊志ん師が演じたのが、その『かつぎや』でした。お!と耳を澄まして聴いていたら、更にそこに、菊志ん師らしいブラックでナンセンスなクスグリを入れていたので、久々にこの噺を聴いて笑ってしまいました。

ネタバレになってしまいますが、一番笑ったのが「とむらい(弔い)」。それは誰だ?と尋ねると「トムヤンクン屋のライオネス」さん……。

落語というのはどんな形であれ、継承されていき、それを受け継いだ演者は自分が考える演出で噺に斬り込んでいく。だからこそ落語は、次の時代にも通用し、そうしてまた様々な意味での裾野を広げていくんだなあと実感した次第。

この日の菊志ん師は、時間もあったので「宝船売り」が登場する後半までたっぷり演じて、墨亭の初春に彩りを添えてくれました。(雅)

(この会の番組)

柳亭芝楽『やかんなめ』 ←地元、向島を舞台にした噺

桂 文治『軒づけ』 ←上方落語を文治流に料理して!

(中入り)

古今亭菊志ん『かつぎや』

林家正雀『親子茶屋』 ←向島で芸者と遊ぶ粋な噺を

※写真はトリを務めた林家正雀師(左)と古今亭菊志ん師(右)

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