講談最前線(補)~今、宝井琴桜を聴くということ

※以下、墨亭初登場時(2022.06.19)の「宝井琴桜の会」のパンフ原稿を改訂したもの+αを掲載します。


どんな世界にもパイオニアと位置付けられる人物がいる。

長く男社会であった講談界において、女性講釈の開拓者であったのが、今日の主役・宝井琴桜先生であることは、改めて強く指摘しておきたい。

日本の伝統芸能や大衆芸能の世界の多くは男性中心に作り上げられてきた。その理由は種々あり、ここでは略することにするが、講談界においては、中興の祖とされる松林伯圓や大島伯鶴に女性の弟子がいたとされるも、芸人として活躍するとまでいかなかった。そうした講談界の中で、これからの時代、女性が新しい世界を拡げていくに違いないと、女性を積極的に迎え入れた故・田辺一鶴の功績はまず大きい。そして男性的な修羅場読みが求められていた時代に、自身の読みを確立し、やがてその読みにふさわしく、更にそれでいて、いわゆる女性の目線で、講釈の特長でもある、演者が考える、社会に対するテーマを提示できる話を作り、かつ読み進めてきた宝井琴桜という存在があったからこそ、今ではその数も全講釈師の半数以上を数える、女性講釈師全盛期をもたらせることになったのは、繰り返しになるが、改めて知っておく必要がある。

墨亭で琴桜先生に講釈を読んでもらえる。それはまた墨亭の講釈史に残る出来事といっても過言ではないだろう。

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この時の会でお読みになったのは、『鈴木久三郎・鯉のご意見』と『おかか衆声合わせ』。五代目宝井馬琴の弟子として、古典を大切に演じる一方で、琴桜先生が切り拓いてきた女性講談の道の上で大切に読んできた、そして、これぞ琴桜講談!といえる新作の二題。しつこいようであるが、今の講談界で女性講釈師が活躍するようになったのも、延いては今の講談界が隆盛を誇っている一因に、宝井琴桜という存在があることは間違いない。近年は独演会等をお開きにならないだけに貴重な会。だからこそ、余計に聴いて欲しい!毎回の高座が楽しみな琴桜先生が、今回、どんな話を聴かせてくれるのかが楽しみでならない。(雅)

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