浪花節をレコードで聴く⑳

初代真山一郎「日本の母・落城の舞」(キングレコード)

●「日本の母」:交通事故の犠牲者が増えてきた時代。一人親として拘置所で働く田畑よしえは、ある日、中学二年になった息子の博正が事故に遭い、亡くなったという知らせを受ける。悲しみに打ちひしがれるよしえだが、息子を轢き殺した犯人を前科者にしてはいけないと、罪を赦してあげて欲しいという嘆願書を関係先へと送る。すると博正の命を奪った大谷晃という21歳の青年がやって来て、それからは毎日よしえの家を訪ね、博正の仏前に手を合わせるようになる。すると晃は「自分を息子にして欲しい。そして博正君の代わりに親孝行をさせて欲しい」と願い出る。よしえは母を説き伏せて晃を養子にするが、その晃は道楽者となり、こしらえた借金の埋め合わせをするために博正の見舞金をつぎ込むので、母が博正の仇を取ると言い出す。家を飛び出した晃は心を入れ替えて、後に家族に幸せをもたらす……。

●「落城の舞」:賤ケ岳の戦いで敗れ、今は北ノ庄城に逃れるも、豊臣秀吉の軍に取り囲まれる柴田勝家。正室であるお市の方を前に、20年前に見初めたが、主君信長の妹であったことから高値の花であったこと。後に浅井長政の妻となった時には悔しい思いをしたが、今、自分のもとにいる喜びといったものを語って聞かせる。ところがそこへ秀吉の使者がやってきて、城を明け渡して降参しろと伝えてくる。勝家は城に火を放ち自害をすると返し、お市には三人の姫を連れて城を出ろと命じるが、お市は一緒に自害をすると言ってきかない。勝家の説得に応じ、三人の娘と勝家の前を辞するが、しばらくするとお市だけが戻って来る。そして勝家とお市は二人で長い旅路へと出る……。

●楽隊の演奏をバックに、作品のテーマの掘り下げとともに、エンターテインメントとしての浪曲。更に浪曲そのものの幅広さを感じさせることに臨んだ初代真山一郎の代表作。『日本の母』は実際にあった話で、主人公の田畑よしえというのも本名であり、解説書にはその田畑よしえのコメントも載っている。『落城の舞』では、途中、幸若舞『敦盛』の「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり」という謡曲を聞かせている(勝家が主君織田信長を思いながら歌っているが、信長の口によるものではない)。声も決して重いものではなく、時に中性的とも言える、やわらか、かつ軽快な唸りで、登場人物の心のバランスを歌謡曲風に伝え、三味線の音で一気に語り上げる。真山一郎が目指した歌謡浪曲は、歌謡浪曲であるからこそ、明解な言葉で聴いている人々の心に直球でぶつかってくるような内容と形式を伴う。三味一本ではないからこそ、そうしたことを強く感じることのできる、まさにレコードで楽しむ真山一郎ショウのような作りの一枚。曲師は東家菊枝、演奏はキングオーケストラ。(2021.10.19.)

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