浪花節をレコードで聴く⑮

三門博『唄入観音経・吉五郎発端の巻/吉五郎改心の巻』(ローオンレコード)

●「吉五郎発端の巻」:奥州は白石、小菅村の甚兵衛は、村の年貢である50両を江戸の領主の元へ届けに来る途中に盗まれてしまう。生きてはいられないと吾妻橋から大川へ飛び込もうとするところを木鼠吉五郎に止められ、金を恵んでもらう。そして恩に着せる訳ではないが、自分はお尋ね者で捕まれば死罪になるので、処刑されたと耳にしたら回向をしてくれと頼む。甚兵衛は故郷へ戻り、受けた恩に報いるために観音経の一節を覚え、それを唱え続ける。すると観音経が奥州中で流行り唄になる……。

●「吉五郎改心の巻」:ある職人が瓦版売りから罪人名の記されている読売を買ってくるが、字の読めない者ばかりで、何が書いてあるかわからない。かろうじて文字を知っている熊が読んで聞かせると、そこには木鼠吉五郎が捕まったことが書かれていた。吉五郎は盗んだ物を困った人に恵んでいたので、処罰になるかはわからないとしてあり、それを裁くのは情け深い南町奉行の大岡越前と知って、罪が軽くなるように奉行所へ嘆願書を出すことにする。山猫の権次や向こう傷の熊という罪人が百叩きの刑を受けた日に、吉五郎は大岡越前の裁きを受けるが、困った人を助けてきたことと罪状書に老中による裏判が押されていないことから罰することができないと告げられる。吉五郎は越前守の人情とその勧めにしたがい、名を西念と改めて出家をする。

●三門博と言えば『唄入観音経』。『唄入観音経』と言えば三門博。それだけ戦前から売れ続けていた証拠であり、三門博によれば、自らが創作したものの決定的な台本はなく(畑喜代司という作者名が見られたり、このレコードにも鈴木啓之という名が見られるが……)、時代や自分の年齢に合わせて、節と文句を変えていったことがまた、三門博という浪曲師の生涯の演目になったということにつながろう。聴いている者をそっと包み込むような柔らかな声で、軽快に歌いあげていくような節回しがなんとも言えず心地良く、物語自体もグイグイ進んでいくという訳ではないが、市井に生きる登場人物達の様子であったり、そこで起こる事件に言動といったものを丁寧に描き出していくのが「三門節」の魅力なのではないかと思っている。この盤に収録されている「吉五郎発端の巻」では描かれていないが、甚兵衛の金を盗んだのが山猫の権次や向こう傷の熊であり、それを取り返したのが木鼠吉五郎。それを知ってか知らないでか、吉五郎を助けるのは大岡様と、よくできた展開ではあるが、聴き終えてスカッとさせられるのがまた浪曲の魅力となる。曲師は鈴木リウ。(2021.10.01.)

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