浪花節をレコードで聴く⑭
初代日吉川秋斎『薮井玄亥』(ローオンレコード)
●按摩稼業の薮井玄亥が大阪の船場は十兵衛町を歩いていると、天王寺屋五兵衛の店の中が騒がしい。なんでも主人が病気で、それを治せる医者がいないのだとか。それを聞いた玄亥が店へ入り、治してやるが薬代が一服百料、十服で千両と吹っ掛けるので、店の者が追い出そうとするが、病の床にある主人の身体のツボを押すと、それが効いたのか、主自ら、その値段でいいので診てくれと言い出す。主人は玄亥の薬ですっかり良くなるが、薬代が高いと言い出し、百両に負けさせることにする。そこで番頭が玄亥の家を訪ねると、玄亥は証文があるのだからどんなことがあっても負けることはできないと言う。番頭は町奉行の柳民部守から受け取ってもらうと言うので、早速、奉行所へと向かうことにする。奉行は天王寺屋の訴えを聞き、また玄亥から薬の元代が二文と聞いて高いと言うが、玄亥は自分の腕に値段があるのだと返す。そして改めて尾張の薮井玄亥と名乗り出ると、柳民部守は真っ青になる。京都所司代の板倉伊賀守から、薮井は自分の命の恩人であるから丁重なもてなしをしろと手紙をもらっていたのだ。玄亥は千両の金を受け取るが、それを困っている人達へ与えて、自分はまた汚れた着物一枚で京都へと去っていく。
●秋水の押しの強い声が、流れるようなテンポを持った節とともに、金をめぐる登場人物のやり取りにはじまり、「人間ちゅうな義理人情として腹の中ではええざまやと思うても、口では気の毒やと、こう言わんならんやないけえ」といった人の心をグイをえぐるような啖呵で笑いをグイと押し出してみせる、まさにケレン読みの大家たる一席。手法としては『水戸黄門』や『左甚五郎』物と同様に、最初は身分を明かさないものの、最終的には身分を明かし、困っている人の役に立つ行動を取るというもので、ここでは薮井玄亥という、滅法腕はいいものの、それを自慢することなく、旅の空にいるという展開にあり、ここではその内の「大阪の巻」を演じている。ライブ録音を発掘し、それをレコードにしたものだと盤内で解説をしている大村崑が話している。そこでは日吉川秋斎に入門したかったが、秋斎から「あなたは喜劇の方が向いている」と言われたといったエピソードも明かしている。曲師は日吉川真寿。(2021.09.28.)
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