浪花節をレコードで聴く⑬
浪花家辰造『上州博徒仁義・瓢屋縁起』(ローオンレコード)
●『上州博徒仁義』:上州例幣使街道の八木宿に福井の勘蔵という親分がいるが、三年前から寝たっきり。その子分で身体は小さいが度胸は一番の大三郎という男。ある日、勘蔵に呼ばれ、お前の手に掛かって死にたいと言われる。なんでも、国定忠治という男が縄張りにしている柳田の宿で花会を開くという話を聞いて、こんな身体になって情けないと言うのだ。実は大三郎は花会のことを知っていたが、余計なことを耳に入れたくなかったと話し、勘蔵をなだめ、花会の初日に一人で会場へ乗り込むことにする。そして、ひと騒動起こりそうな時に忠治が顔を出す。忠治は勘蔵の兄弟分である島村伊三郎をかつて斬った男だが、それは理由があってのことと、仁義を切らずに花会を開いたことに詫びを入れ、今から勘蔵の所へ挨拶に行きたい、また見舞金を渡したいと言うが、大三郎はそれを断る。すると忠治は、見舞金を持って行けば、花会のアガリを手にした親分として箔がつくだろうと返す。大三郎はその心意気に感動して勘蔵の元へ戻るが、留守の間に井戸へ身を投げていた。大三郎へあてた手紙には、やくざ稼業をやめて堅気になれとしてあった。それから15年後、忠治が処刑された大戸の関に忠治地蔵が建てられ、そこには深川材木問屋上州屋大三郎という名が刻まれていた……。
●『瓢屋縁起』:大坂夏の陣で豊臣家が滅びた後、堺の大安寺に一人の男が尋ねてくる。それは豊臣家の家臣である木村又次郎で、今は寺の住職を務めている旧知のもとを命からがら頼ってきたのだ。又次郎は乳兄弟である木村重成から預かった千成瓢箪の馬印を手にしており、もう一度、それを活かして欲しいと頼み込む。ところが和尚は大坂伏見町の瓢屋という揚屋の亭主になれと返す。又次郎はその提案に怒りを見せ、千成瓢箪の供養に和尚を切ろうとするが、そこへ板見屋源兵衛が小柄な男を連れてやって来る。落人と聞いて和尚は引き取ることにするが、実はそれは死んだと思っていた又次郎の女房おきぬであった。和尚は大勢の人が亡くなる戦いは無くさなければならないと聞かせて、おきぬに200両の金を渡し、後に大阪新町で一番の揚屋になる瓢屋を二人に開かせる。
●その張りの強い声で聞かせる啖呵の切れの良さ。持っている息を全て吐き出すような力強い節。晩年に『黒田武士』を聞いたことがあったが、いかにも男の浪曲をぶつけてくるような高座が印象にある。両面ともライブ音源で、聴き手が集中してその力の入った至芸に耳を傾けている様子がわかるようでもある。『上州博徒仁義』は『赤城しぐれ』と題して演じていた(はず)。『瓢屋縁起』は大坂で唯一、江戸幕府の公認を受けた新町遊廓を開いた浪人木村又次郎の物語。又次郎は加藤清正の家臣であり、講談でもおなじみの木村又蔵の曽孫と伝えられ、この話にも出てくるように木村重成の乳兄弟とされる人物。西横堀川に架けられた新町橋が「ひょうたん橋」と呼ばれていることにその名を残している。ともに聴かせる話で、A面では侠客の威勢の良さと人情のあり方を、B面では人生の岐路とそれを諭す友情と男の意地を、その節と啖呵から感じることができる。曲師は浪花家律子。(2021.09.25.)
0コメント