浪花節をレコードで聴く⑥
二代目木村重松『慶安太平記』(ローオンレコード)
●京都の親寺まで往復10日の使いを引き受けた、身の丈六尺を超える僧善達が芝の増上寺を出発すると、人相の悪い飛脚があとを着いてきた。護摩の灰かと思っていたら、一緒に京都まで行こうと声を掛けてきた。気味は悪いが、足が速くて逃げられもせず、また自分のことをよく知っているので同道を許すことに。その日は箱根で泊まり、安倍川を越えて宇津ノ谷峠までやってくると、長持を担いだ男達が現われ、飛脚は徳川様に恨みがあるから、ここを通る紀州様の三千両を奪い取る。その仕事が失敗しないように、京都まで連れて行って欲しいのだと本心を告げる。そこで二人の掛け合いがあり、善達は三百両をもらうことで、向坂の甚内という名の飛脚の願いを受け入れることに。そして吉田の宿に泊まると、宿の主人から、昨夜、徳川の軍用金が襲われたので、宿泊客を表に出せないと言われて慌てる。甚内は宿からうまいこと抜け出ると、しばらくして帰ってきた。何でも宿内に火事の卵(爆弾)を仕掛けてきたので、大騒ぎの中、逃げ出そうと言うのだ。策略はうまく行くが、宿場町を見回る伊豆守が二人の逃げていく様を目にする……。
●『慶安太平記』と言えば、初代重松の好演が知られるが、息子であり、弟子の二代目もまた得意にした演目である。初代の音も残るが、二代目演のものは物語の強さを感じない。悪く言えば迫力に乏しく、筋を追っていくことが主。良く言えば、癖が無くて、いかにも古き良き時代の浪曲を思わせるような浪曲を丁寧に聴かせてくれるといった趣きがある。声はさびのある低音だがm啖呵で聞かせる芸と言ったら、これまた言い過ぎか。セリフ回しは流暢で、善達はまだ文字通り?善人で、甚内は最初から怪しく、その悪党ぶりが物語をかき回していく。悪事の中での人間の滑稽さも描いた浪曲らしい浪曲。木村派の芸人も、今は木村勝千代しかいなくなった。その勝千代も演じる『慶安太平記』。物語の主人公である由井正雪はラストでちらりと顔を出す、浪曲や講談で知られる『宇津谷峠』の一席。曲師は木村みつえ。(2021.09.07.)
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