浪花節をレコードで聴く①
京極佳津照『隠岐の孤島/晴れ晴れ雲』(ローオンレコード)
●後に浪曲中興の祖と呼ばれるようになった桃中軒雲右衛門が吉川繁吉という名の頃、女房で三味線弾きのお浜と岡崎の地で門付けをしている。ある日、開盛座の主人に誘われ、舞台に上がり、富士山一国斎と改名し、実力と人気をつけていく。それから10年後、雲右衛門という名で京都南座の舞台で押しも押されぬ浪曲師となったその楽屋へ、開盛座の番頭がやって来て、小屋のお凋落と新しくできた千歳座に中村鴈治郎が出演するので、雲右衛門で対抗したい旨を告げる。喜んで劇場に出向く雲右衛門は10年前のお礼と、十八番の『南部坂雪の別れ』を唸る……。
●一時期、姓名学に凝って「京極佳津照」と名乗っていた時期があり、このレコードの表記もそれに従っているが、やはり「松平国十郎」の方がしっくりとする。実は個人的に間に合っている先生で、その時に聴いたのも、この『晴れ晴れ雲』であった。前半の若き雲右衛門の苦労にある様子と、有名人になってからも、自分の芸と受けた義理は忘れないでいる様子。その心情描写が、まさに「朗々と」という表現がピッタリな節回しと啖呵からうかがえる。独特なサ行の発声と、その高音で滑らかな節の調子もまた気持ちいい。終盤で桃中軒雲右衛門の声色で『南部坂』を唸るのだが、これが音に残る名調子とそっくりで驚く。レコードのA面は『隠岐の孤島』(中川明徳・脚色)。元弘の乱で隠岐島に流された後醍醐天皇とその臣下の物語。たっぷりと国十郎節が味わえる。『晴れ晴れ雲』は村松梢風原作で、吉野夫二郎脚色。ともに三味線は松浦友岐子。(2021.09.01.)
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