講談最前線(補)~なみはや講談フェスティバル2022へ行って来た(下)

(承前)

落語家を迎えてのフェスティバルであり、ゲストとして出演した、今人気上昇中の桂二葉さんにベテランの笑福亭伯枝師の高座も面白かったが、やはりこの日の主役は講釈の先生であった。

前半に出演した旭堂南湖先生は『曲馬団の女』。十二代目田辺南鶴が戦後の新聞から題材を得た新作講談とされ、東京の、特に田辺派の講釈師が好んで演じる演目であるが、南湖先生の確かで、やや緩やかな読みが、結果として戦中の東京の舞台の持つ雰囲気を目の前に鮮やかに映し出し、上方・東京という文化や風俗の境を感じさせない、まさに名演に仕上がった。後日、知人より、南湖先生が好きな作品であると聞いて納得したのも道理。再度、再々度と聴いてみたい一席であった。

中入り後の旭堂南華先生による『ショパンとジョルジュサンド』も逸作。まるで男を養分のようにして生きていく(と記したら、怒られるだろうか)女性、ジョルジュサンドの魅惑に憑りつかれてしまう、女性慣れしていない作曲家ショパンの物語。マクラでは自身の結婚観や、神田陽子先生と「一バツ会」(バツイチの女性講釈師の会)を作ろうという時に起きたエピソード。それに苗字に関する考察など、一女性表現者としての考えを前面に押し出しつつ、本題に入れば女性を決していやらしい風ではなく、意思を持つ女性として、一方で男性のだらしなさとその心の揺らめきを描く様が、作品の楽しさをうまく引き出した。南華先生は得意にされる世話物や、また硬い読み物もいいが、結果として、この日のようなトリの南北先生の”男の世界”に対する、女性と女性に翻弄されていく男性の姿を描いた演目も良く、南華先生の陽な読みの中から見えてくる、人生の陰な部分を描き出すといった、南華一流の読みといったものを楽しむこともできた。

上方で聴く上方講談の楽しさを感じることのできた会であるとともに、以前、池袋演芸場でなみはや講談会の講談会が開かれたことがあったが、ぜひとも東京での再演を望みたくなった会でもあった。(雅)


《2022なみはや講談フェスティバル・10公演の演目一覧》

2022.08.15.朝の部

旭堂一海「佐助の誕生」

桂佐ん吉「長短」

旭堂南海「潮田の忠義膏薬」

桂あやめ「禁酒ホテル」

(中入り)

旭堂南鱗「木津の勘助」

旭堂鱗林「藤吉郎とねね~間違いの婚礼」


2022.08.15.夜の部

旭堂一海「池田輝政と督姫」

笑福亭生寿「幽霊の辻」

旭堂南北「江島屋」

桂雀三郎「腕喰い」

(中入り)

旭堂南湖「真景累ケ淵~宗悦殺し」

旭堂南華「真景累ケ淵~豊志賀の死」


2022.09.03.朝の部

旭堂一海「小牧山の出会い」

桂米輝「阿弥陀池」

旭堂南海「紀文・蜜柑船」

桂南天「代書」

(中入り)

旭堂鱗林「桶狭間の合戦」

旭堂南鱗「幸助餅」


2022.09.03.夜の部

旭堂一海「小野川と雷電」

桂二葉「金明竹」

旭堂南湖「曲馬団の女」

笑福亭伯枝「悪酔い」

(中入り)

旭堂南華「ショパンとジョルジュサンド」

旭堂南北「八丈島物語」


2022.09.04.朝の部

旭堂一海「家康伊賀越え」

桂九ノ一「紙入れ」

旭堂南鱗「秀吉と易者」

桂文鹿「紙相撲風景」

(中入り)

旭堂鱗林「名古屋コアラ物語」

旭堂南北「東玉と伯圓」


2022.09.04.夜の部

旭堂一海「西行鼓ヶ滝」

露の紫「看板の一」

旭堂南北「秀吉と利休」

笑福亭鶴笑「立体西遊記」

(中入り)

旭堂鱗林「越の海」

旭堂南海「石田三成の最期」


2022.09.11.朝の部

旭堂一海「曽我紋尽くし」

笑福亭たま「お通夜」

旭堂南鱗「牛盗人」

笑福亭学光「夢八」

(中入り)

旭堂南華「梅若丸」

旭堂南湖「赤垣源蔵徳利の別れ」


2022.09.11.朝の部

旭堂一海「三献茶の逸話」

桂華紋「商売根問」

旭堂南湖「大瀬半五郎」

笑福亭福笑「入院」

(中入り)

旭堂南華「情けの仮名書き」

旭堂南鱗「善悪二筋道」


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