浪花節をレコードで聴く⑱

東洋日出丸「老母をめぐるその子達・富士川の血煙り」(ローオンレコード)

●「老母をめぐるその子達」:政夫が妻の八重子から、年老いた母を妹の和子とひと月交代で面倒をみることにしたらどうかと相談を受ける。母は政夫が5歳の時に後妻でやってきたが、連れ子の一郎よりも大切に育ててもらったことから、その恩を感じ、妻の提案を受け入れられないでいる。そのやり取りを一部始終聴いていた母は友達の例を持ち出し、自ら和子とのところでも世話になろうと言い出す。ところが和子とその夫である内山もまた母親を体よく追い出す。そんな中、政夫の家を弁護士が訪ね、一郎が南米で大成功を収め、母親の身を案じて3000万円の金を送ってきたことを伝える。それに目の色を変える政夫夫妻。弁護士と入れ替わるように警察官が訪ねてきて、母が身を投げたことを伝える。命ばかりは助かった母親だが、弁護士が見舞うと一郎hの感謝の意を述べるとともに、3000万円は養老院へ寄付をして欲しいと告げる……。

●「富士川の血煙り」:親分からもらった縄張りと女房のお定を取られた国五郎が、荒熊親分のところへ殴り込みへやって来る。ところがお前がだらしないのが悪いんだと言われ、簀巻きにされた上になぶり殺しにされてしまう。国五郎の仇を取ることを決めた次郎吉が表へ飛び出すと、そこには間抜けの有太郎が立っている。「俺が行けば阿呆を斬ったと言われるようになるから、相手もうかつに斬ることができない」と言って荒熊の元へと向かう。荒熊は有太郎を斬ろうとするが、有太郎の言うことがもっともだと隙をみせる、すると有太郎は早業で荒熊とお定の首をはねてしまう。改めて啖呵を切り、二つの首を手に提げ、世話になっている観平親分のところへ帰ってくると、凶状持ちに長居は無用と旅の空に出る。間抜けの有太郎は実は仮の姿。10年後には「お茶の香りと男伊達」とうたわれた清水次郎長の若い頃の話。

●東洋日出丸というと、昭和の上方漫才界で活躍をした「東洋朝日丸・日出丸」の一人として知られるが、もとは梅中軒鶯童にあった少年浪曲師としてデビューをした経歴を持つ。私もMANZAIブームの時に、バンジョーを弾きながらギター担当の弟の朝日丸との漫才を見たことがあるが、この盤ではその日出丸の笑いを取る話ではなく、しっとりと義理と人情をうなる浪曲を二題収めている。一席目の冒頭の節では浪曲漫才を思わせるような、一種軽めの、言ってしまえば、歌謡曲のような唸りではあるが、聞き進めていくとこぶしを使ったドシッと来るような節を聞かせてくれる。また畳み込むように間合いを極力なくすような啖呵もまた特徴的でありながら、これまた次第に間合いを取りながら、人情や情愛を描き出す様子が感じられる。徐々に浪曲師としての感が戻っていったのか、それともそういう聴かせ方を特長としたのか気になるところだが「聴かせる」浪曲を演じていることは間違いない。次郎長伝は一転して、歌謡浪曲と言えばよいだろうか。節の部分ではギターを使って得意の喉を聞かせたり、三味線をバックにする時にはドスを効かせた声で聞かせたりと、いかにも上方浪曲然といった様子を感じ取ることのできる、これまた聴かせる浪曲を聴かせてくれる。曲師は松浦有岐子、ギターは近江吾朗。(2021.10.17.)

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